M&A業界の今(市場規模、M&A件数推移)
2019年は過去最高4,000件超え
三井不動産による、東京ドームのTOB(株式公開買い付け)、ニトリによる、島忠のTOBなど、M&Aに関連する経済ニュースは、ほぼ毎日目にするほど、企業の統合・再編は連日行われております。レコフ社の調べによると、2019年は、過去最高の4,000件を超えるM&Aがなされ、特に国内企業同士のM&A(IN-IN)が2011年の1,086件から、2019年には3,000件に上るなど件数が年々増えております。下記のグラフで全体数字を載せておりますが、6年で倍増し、過去最高を更新しております。
直近3カ年のM&A件数推移
また、直近3カ年で、M&Aの件数推移を見てみますと、
● OUT-IN *1
198件→259件→262件
● IN-OUT *2
672件→777件→826件
● IN-IN *3
2,180件→2,814件→3,000件となっており、
2019年のM&Aの内、日本国内企業同士のM&Aは3,000件と全体の7割以上を占めております。
ディールの規模(金額)は当然ながら大企業同士のM&Aが大きくなりますが、件数増加の背景は、中堅・中小企業のM&Aが活発化していることに起因しています。そしてその理由として挙げられるのが、
(1)事業承継問題解決のためのM&A
(2)ベンチャー投資M&A です。
特にこの2、3年の伸びは著しく、事業承継M&Aは、2年で2倍以上のハイペースで増加しております。
*1 OUT-IN
買い手 外国企業-売り手 日本企業のM&A
(※OUT-INの例:鴻海精密工業によるシャープの買収)
*2 IN-OUT
買い手 日本企業-売り手 外国企業のM&A
(※IN-OUTの例:リクルートホールディングスによるIndeedの買収)
*3 IN-IN
買い手 売り手 共に日本企業のM&A
(※IN-INの例:伊藤忠商事によるファミリーマートの完全子会社化)
事業承継問題とは...
M&A業界について、M&A仲介会社について、ある程度お調べになっている方であれば、聞いたことがあると思いますが、中堅・中小企業の「事業承継」の問題が差し迫った問題となっております。
(1)オーナー経営者の高齢化の問題
-経営者の半数以上が還暦超え *4
-経営者の年齢の山が69歳 *5
(2)後継者不在
-約7割(66.5%)の企業が後継者不在 *6
理由は上記2点が大きく、廃業をすると、雇用喪失、技術伝承など地域経済活動、地域社会への影響が大きく、国や地方自治体も第三者承継を推進するための支援を始めております。またコロナ禍に於いて、その動きが更に加速するのではないかと言われております。
そうした背景もあり、事業承継M&Aは近年急増しております。
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*4 帝国データバンク「全国社長年齢分析」2018年 より
*5 2019年度「中小企業白書」より
*6 帝国データバンク「後継者問題に関する企業の実態調査」2017年 より
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事業承継M&Aは、2年間で2倍増
そうした中、現在休業・廃業・解散となる中小企業は増加の一途を辿っており、2019年は43,348件*7 と5年前よりも約10,000件増加。また、2025年までに、経営者が70歳以上となる後継者未定の中小企業は、約127万者(日本の企業の約3分の1)*8 に上ると試算されており、国(中小企業庁)も、その127万者のうち、黒字廃業する可能性のある約60万者を、M&Aをはじめとする第三者承継を促すことを目指しています。*9
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*7 東京商工リサーチ調べ
*8 平成28年度 総務省「個人企業経済調査」、平成28年度 株式会社帝国データバンクの企業概要ファイルから推計
*9 経済産業省が2019年12月策定した、第三者による事業承継を総合的に支援するための「第三者承継支援総合パッケージ」より
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ベンチャー投資M&Aも活発
次に、2点目のベンチャー投資M&Aですが、こちらもここ5年ほどで急速に数を増やしており、2015年に302件だった件数が、2019年には1,375件と4.5倍増加しております。上場企業がスタートアップ企業をグループ企業に迎え入れるケースは、特に、IT・テクノロジーの領域では顕著で、一例ですが、KDDIは下記のような企業を買収、子会社化しております。
■KDDIのM&A(の一部)
・2017年8月 ソラコム
・2017年2月 Loco Partners
・2016年6月 Connehito
・2015年4月 ルクサ
・2014年10月 nanapi
■その他、近年のM&A事例
・2018年12月 京セラコミュニケーションシステムによるRist(AIスタートアップ企業)の買収
・2018年7月 ヤフーによるdelyの子会社化
・2017年12月 Z会による葵(アオイゼミ)の完全子会社化
・2017年11月 資生堂による 米国Giaran社(AIスタートアップ企業)の買収
昨今は、こうしたIT・テクノロジー関連のベンチャー企業のM&Aを専門に扱うM&A仲介会社も出てきており、IPO以外のイグジット手段であるM&Aが徐々に増えて、イグジットを果たした創業経営者が、また新たな会社、事業をしばらくした後に立ち上げるケースも増えてきております。
ベンチャー投資M&A 件数推移
事業承継M&Aもベンチャー投資M&Aもそうですが、中堅・中小企業、ベンチャー企業にとって、「M&Aという選択肢」が身近な存在になってきたことも背景にあり、それを地道に広めてきた(中堅・中小企業向け)M&A専業会社、M&A仲介会社の存在も大きいのではないかと思います。
「(M&Aは)大企業が行うもの」と思われていた方が多いM&Aに対して、中堅・中小企業でもM&Aが出来るんだ、選択肢としてあるんだな、ということを、これまでの成約実績や広報・告知を日本全国の経営者に向けて行ってきたことが、オーナー経営者様の事業承継の選択肢のひとつとして認知を得、選択することが増え、実績数として増えている一因だと思います。
その、M&A仲介会社、大手3社(日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク)は、全て上場企業ということもあり、投資家向けに様々な情報を開示しており、M&A成約実績についても、直近実績から、近年の実績数の推移などを公表しております。
まず、下記に中小企業白書2018年のデータを基に作成したグラフを共有いたします。
M&A仲介会社 大手3社の成約数推移
決算期が異なることやカウント方法に差異がございますが、2018年、2019年、2020年(期)の3社実績も下記のように伸びております。
■2018年、2019年、2020年(期)の3社実績*10
535件 → 650件 → 724件
●日本M&Aセンター(3月期)
332件 → 402件 → 451件*11
●M&Aキャピタルパートナーズ(9月期)
115件 → 144件 → 139件
●ストライク(8月期)
88件 → 104件 → 134件
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*10 各社IRを参照したデータ。
*11 日本M&Aセンターの数値は、成約組数計【取引数カウント】という数値で、取引数に着目したカウントを言います。
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次に、M&A市場のプレイヤーとその特徴について、まとめさせて頂きます。
M&A業界のプレイヤーと特徴
成約金額別に大きく3つに分類されるM&A市場
上記の図のように、
・国内大手金融機関、外資系投資銀行などが手掛け、ニュースでも大きく報道される大型M&A
・M&A専業会社や地銀、会計事務所などが手掛ける、中堅・中小企業のM&A
・盛り上がりを見せている、M&Aマッチングサイト、オンラインでのM&A仲介サービスの領域
の3つに市場が分類されており、それぞれ、関わるプレイヤーも異なっております。
そして、それぞれの企業規模別にM&Aを実行する目的とニーズが異なります。
下記は、企業規模別の主な目的・ニーズについてまとめた図となっております。
M&Aの目的・ニーズ(企業規模別)
上記の中堅企業における【成長戦略型のM&A】と中小企業における【事業承継型のM&A】の2点の増加が、先にもお伝えした国内企業同士のM&A件数の増加に繋がっており、M&A専業会社の主戦場故、マーケットの成長とともに、M&A専業会社が昨今脚光を浴びております。
中堅・中小企業のM&Aを手掛ける代表的な民間企業がこの領域のパイオニアである、株式会社日本M&Aセンター社で、直近期で年間885件*12の成約実績をあげ、コロナ禍でも昨対比増を続けるなど、その成長速度は留まるところを知りません。そして、同社のようなM&A仲介会社は、数多ある中堅・中小企業の中から、事業承継M&Aを検討する企業を自ら開拓、探索する動きも取りながら、大手金融機関(の各地の支店、拠点)、各地の地方銀行、信用金庫、会計事務所などと連携・提携をし、案件紹介を得るなど、ニーズ探索の仕組み化を図っています。
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*12 2020年3月期 同社IRより
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3.M&Aの一連の流れ
次に、M&Aの流れをご説明いたします。売り手企業(譲渡企業)と買い手企業(買収企業・譲受企業)それぞれで説明をいたします。
M&Aの流れ①(ご相談~トップ面談まで)
売り手企業(譲渡企業)と買い手企業(買収企業・譲受企業)が会う前の段階までが、上記の図となっており、
■売り手企業(譲渡企業)のSTEPとして
・個別相談
・提携仲介契約、アドバイザリー契約
・企業価値診断
・企業概要書作成(ノンネームシート、詳細)
・お相手先の探索(マッチング)
を経て、買い手企業とのトップ面談に臨みます。
■買い手企業(買収企業・譲受企業)のSTEPは、
・相談、登録、M&A会社からの案件提案
・ノンネームシートの受領、検討
・秘密保持契約の締結
・企業概要書の受領、M&Aの検討
・提携仲介契約、アドバイザリー契約
・詳細情報の入手、検討、確認
を経て、売り手企業とのトップ面談に臨みます。
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【売り手企業(譲渡企業)補足説明】
・相談
-無料で簡易企業評価を実施したり、同業のM&A事例提供、M&Aについての各種ご相談、ご質問を承ります。
-M&A会社側は、様々なヒアリングを行い(会社について、オーナー経営者様について、なぜM&Aを検討しているのか(売却検討目的)、M&Aを行う上での希望、譲れないこと等)、同時に、リスク(情報漏洩、売却に至らない、希望額に届かない等の可能性)についての説明を行います。
-譲渡(検討)企業様側は、やり取りを通じて、どのM&A仲介会社、M&Aアドバイザリーに依頼をするか(どのM&Aコンサルタントに依頼するか)を見極める場となります。
・提携仲介契約、アドバイザリー契約
-M&A仲介会社、M&AアドバイザリーとM&Aを進めることを決めた場合に結ぶ契約書になります。業務範囲(スケジューリングなど各種調整、企業価値評価算定、企業概要書作成、候補企業の探索、候補先企業の情報提供、契約書のドラフト作成、条件交渉など)、報酬(着手金の有無、中間金の有無、成功報酬、最低報酬額など)、有効期限、秘密保持、免責事項等が記載されます。また、契約には、「専任契約」と「非専任契約」があり、専任契約の場合は、契約を締結したM&A会社のみと(契約の有効期限内は)M&Aを進めていく形となります。
・企業評価
-オーナー経営者へのヒアリングと資料提供(決算書3期分等)を基に、企業価値評価を行います。収益性や財政状態、成長性、業界特性、経営計画など様々な情報を基に試算します。
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M&Aの流れ②(トップ面談~クロージングまで)
トップ面談を経て、互いに話を前進させる意思がある場合は、(MUSTではないですが、)買い手企業側から意向表明書の提出があることがございます。デューデリジェンス前の現時点での譲渡希望額、スケジュール、独占交渉権などが記載された書類となり、具体的に話を進めたいという意向を伝えるものとなります。
その後、諸条件の交渉・調整を行った後に、基本合意契約の締結を行います。基本合意契約の締結後に、譲受企業側の実態調査のための各種デューデリジェンス(財務・税務・法務など)が実施され、リスク要因の取り扱い調整や基本合意契約の段階で保留されていた事項を確定させたりして、最終的な譲渡契約を締結。譲渡金の受領、株券の受け渡し、代表取締役の交代などを行い、クロージング。M&Aの成立となります。
一般的な所要期間は半年から1年の間、と言われてますが、それ以上に及ぶこともございます。
【参考:買収監査(デューデリジェンス)について】
デューデリジェンスも多岐に及んでおり、
-財務監査
-税務監査
-法務監査
-ビジネス監査
-人事監査
-IT監査
-知的財産権監査
-不動産監査
-環境監査 などがあり、業界・企業毎に行う内容が異なります。
【参考:M&A譲渡契約書/最終契約書の主な記載事項】
-売買条件(譲渡価格・決済方法)
-前提条件(M&Aのクロージング実行の条件)
-譲渡企業側の義務
-手続条項
-表明保証(譲渡企業側が譲受企業側の確認事項について、真実であることを表明し、保証をする旨の条項)
-保証条項(表明保証や契約事項に反した場合、損害を補填するという規定)
尚、M&Aが成立して終わり、ではもちろんなく、譲渡企業側は、従業員や取引先へのアナウンス、譲受企業側はPMI(経営統合作業)が実施される形となります。
【参考:売り手企業側が実施する、従業員へのアナウンス】
-会社を売却する理由・経緯
-買い手企業がどのような会社か
-雇用が維持されるのか
-勤務地は変わらないか
-今後どのような変化があるのか
-社長は会社に残るのか